Pen (August 2001)
形は愛くるしいが、中身は玄人好み。
現役レース界で活躍する一戦級メーカーを結集して造られた小型軽量スポーツ。
その性能、その出来には、瞠目すべきものがある。
 
1.2Pの排気量、全長3.6mというサイズはともにヴィッツよりも小さい。そう聞くと、凄いクルマには思えないが、 開発に関わったエンジニアリング陣の陣容を見ると、その凄さがわかる。 現在ウエスト・メルセデス・マクラーレンF1のエンジン製作を受け持つイルモアが、トライアンフのバイク用 エンジンを改造している。 運転席後方のミッドに搭載するための必要からだ。 ドライブトレインは、現役レース界で活躍するヒューランド、クワイフ、レイナードとのコラボレーション。 足回りには、ビルシュタインのショックとスプリングを使用し、これらのエンジニアリングの総指揮をとるのは、 有名なコーリン・スプナーである。 英国で今、最も人気の少量生産スポーツカー シャーシーのデザインは、レイナードが務め、ヘクセルがコンポジットハニカム構造のアルミモノコックを製造 している。 ブレーキはAP。どの部分をとっても現役バリバリの一流メーカー製コンポーネントが採用されている。 愛らしい形はしていても、中身は超一流というのが、ストラスキャロンSC-5Aの実体だ。 このクルマを企画し、錚々たるメーカーの協力をとりつけたイアン・マクファーソンもえらい。 スコットランド貴族の自動車評論家として知られる彼は、開発から5年かかって送り出したこの軽量ロードスター によって、一躍、時の人となった。 550kgのボディーに125馬力。公道を走らせるよりは、そのままサーキットを走らせたくなるようなクイックな 走りだ。 権威のある自動車雑誌「トップ・ギア」が五重丸をつけ、今、英国の少量生産車のなかで最も注目されて いるクルマである。 SC-5Aの各部は、ワンオフできる部品が多用されている。クルマ好きのメカニックたちによって、このクルマが アッセンブルされていく様子は、さながらレースのワークスのようだ。 こんな凄いヤツが、ケンブリッジシャーの片隅の小さな工場から造りだされる。慌ただしい現代が、ともすると 忘れかけていたスピードや運転の楽しさを教えてくれる。これが少量生産車の素晴らしいところだ。
 
ENGINE (Octobert 2001)


またしても! トラック・デイのためのマシン

スコットランドの大貴族の息子がつくるサーキット走行のための一流ブランド結集軽量スポーツカー。

 
ストラスキャロンSC-5Aは、トライアンフの1.2P4気筒エンジンをミッドシップする、ライト・ウエイト・ スポーツカーである。そもそものコンセプトは、4年前、4輪とバイクのレースに出場する一方で、自動車ジャーナリストでもあり、自動車メーカーのコンサルタントでもあったイアン・マクファーソンが、トラック・デイを楽しむ ためのクルマを自分でつくろうと思い立ったことにはじまるという。 イアンはスコットランドの大貴族、ロード・ストラスキャロンの息子で、人脈も金脈もあったのだろう。 シャーシー・デザインはレーシングカーの製作大手として知られるレイナードに、スタイルはドゥカティーを手がけたイギリスのデザイン会社、akaに、エンジンははチューニングをイルモアに、それぞれ依頼したのである。 前日の巡礼の際、リー・ノーブルがイギリスでスポーツカーをつくるのは「きわめてイージーだ」と言っていただけ れど、こうして名前をあげていけば、さもありなん。世界のモータースポーツをリードするイギリスには、技術と アイデアと人材がゴロゴロしており、それに緩めの道路法規が輪をかけ、新たなスポーツカーづくりを容易にして いるのだ。ただし、リー・ノーブルいわく、イギリス人は量産はヘタだから、自動車メーカーは全部つぶれた。 イギリス人は非効率の怪物だ、と。 贅沢な話 4年を経て、ストラスキャロンSC-5Aはようやく量産がはじまったところだ。シャシーは、航空機用のアルミ ハニカムでセンター・モノコックをつくり、前後にスティールのサブフレームをくっつけている。 サスペンションはフロントが不等長のウィッシュボーン、リアがド・ディオン。全長3600mmとコンパクトな こともあって、車重は550kgに過ぎない。 ドアもなければ屋根もないこのクルマに乗り込むのは、僕ら土足禁止の生活を送っている人にはむずかしい。 片足でシートを踏んづけて乗り込むように推奨されるからだ。エンジンを目覚めさせると、ストレートカットの ギアがメチャクチャ耳につく。 メガブサより低速トルクがあって、かつクラッチのつながりがスムーズなので、発進はそれほど難しくない。 6速シーケンシャル・シフトは、メガブサよりは節度があるが、低速ではシフトショックが大きい。 シフトアップはクラッチを踏まないほうが断然スムーズにいく。 街を抜けて、郊外のB級ロードを突っ走る。それほど加速はすごくないにしても、十分に速い。 スクリーンが大きく、ボディーのサイドが乗員の肩まで来ているので、風の巻き込みは軽微だ。 軽量コンパクト、という開発コンセプトの類似から、ドライブフィールはエリーゼにもよく似ている。 エリーゼより小ぶりなボディーとバイク・エンジンならではのよさがある。風のように、あるいは虫のように軽快。 APのノンサーボのブレーキはソリッドな踏み応えで、ジワリと効く。 でも、高回転まで回さないと、ちょっと退屈。フツーに走っている状態では、ゴトゴトとゆられているだけで、 味も素気もない。ギア・ノイズ対策としてヘリカル・ギアを開発中ということだが、どうして4年もほうって おかれたのだろう。大貴族の息子、たったひとりのためにつくられたクルマだから? なんとも贅沢な話だ。
 
AutoJumble vol.42 (December 2001)
レイナードが設計をサポート
セブン+エリーゼ÷2=ストラスキャロン
Strathcarron SC-5A
 
レイナードはイギリスの老舗シャシーメーカーである。F1ではBARホンダがレイナードシャシーを使っているし、 フォーミュラ日本では全てのチームがレイナードシャシーで戦うほど、歴史と実績があるメーカーだ。 そのレイナードが開発に関わったのが、ストラスキャロンSC-5Aというライトウエイトスポーツカーである。 輸入元のメイショクオートモビルに試乗希望の電話を入れると、いつでもOKとのこと。 カメラ担いで新幹線に飛び乗った。間近で見るとストラスキャロンは、サイズ的にはエリーゼと互角。 意外に大きかった。ドアというものが存在しないから、「ヨイショ」とサイドシルを跨ぐようにして乗り込み、 コクピットに身体を収めると、目の前にはレーシンングカー然とした世界があった。 その眺めはとてもシンプルで、小径ステアリングの向こうにスタックの小ぶりなメーターがひとつ並ぶだけ。 洗練されてはいるが、男の仕事場、というフレーズを思い出した。 右側に生えたシーケンシャルミッションのレバーに手を伸ばす。アルミのシフトノブがいい感じだ。 コツンと押すと1速。ニュートラルをはさんで手前に引くと2速で、そのまま引くことでシフトアップしていく のは、他のシーケンシャルミッションと同じ。バックは引き寄せるといった感じでのシフトとなる。 ケイターハムブラックバードのような複雑さがないのがいい。 サイドブレーキ後方にあるスタータースイッチを押すと、エンジンが始動する。イグニッションで躾けられた トライアンフ製エンジンはやや高めながら性格にアイドリングを刻む。が、ECのエミッションをクリアーする 触媒が取り付けられたマフラーが奏でるサウンドはやや刺激に欠けた。 クラッチを踏んでギアを1速に送り込むと、ガクッというショックをともなってエンゲージされた。 低回転でのトルクはが細いので、発進時にやや回転を上げてやらないとうまく発進できない、と事前に説明を 受けていたので、慎重に操作したつもりだったが、カクンと止まってしまった。ブリッピングしながら慎重に クラッチを繋ぐと、今度はスルスルと動き出した。 慣らし中のエンジンをいたわり6000回転をリミットにシフトアップしていく。シーケンシャルのシフトフィール はコクン、コクンとゲートに吸い込まれていくようで気持ちがいい。ドライブトレイン関係の精度の高さを 感じた。高速道路での直進性は、フロントに2サイズダウンの185/55-15サイズのタイヤが装着されているとは 思えないくらいどっしりとしたものだった。ミッドシップの持つフロントの感覚的な軽さもない。 しかしロックトゥロック2.5のレシオを持つステアリングは、指一本分動かすだけで反応し、敏感すぎるキライ があった。メイショクオートモビルでは、この特性をアライメント修正で変更すべく、アーム類の開発を検討中 という。 ステージをワインディングに移す。セブンと同じドディオンアクスルながら、リアの接地性は高い ようで跳ねる感覚がなく、グッとトラクションがかかっているのが実感できた。 試乗を終えこのクルマについて考えてみた。結論は、セブンほど過激ではなく、エリーゼほど実用車的でないと いうものだった。 イギリスのライトウエイトスポーツが、現代のエミッションや安全性をクリアすべく試行錯誤している中、 このストラスキャロンは、エミッションでは一歩先んじている。クラッシュセイフティーもその気になれば、 スペース的には余裕があるから対処は容易だろう。オペルのスピードスターにエアバックが標準で付いている ように、このストラスキャロンにも、そんなセイフティーデバイスを要求する時代が、もうそこまで来ている。
 
Tipo (February 2002)
story:H.Nakajima
photo:Y.Yoshimi
トライアンフのエンジンを搭載ってバイクのヤツ?
しかもシーケンシャルってスゴクない?
トライアンフのエンジンとシーケンシャルMT。 面白そうだよね!
 
ボディーサイズはほぼエリーゼ、シャシーとサスはレイナード ストラスキャロンSC-5Aは、イギリスのストラスキャロン・スポーツカーズが生産するミドシップ・スポーツカーだ。99年ジュネーブショーで発表されたプロトタイプ、SC-4の公道走行&市販向け進化バージョンと言える。 シャシー&サスペンションはCARTやFニッポンで最大シェアを誇り、BAR F1の設計も手掛けるレーシング コンストラクターのレイナードが設計を担当している。まずシャシーは、ヘクセル社が生産するアルミハニカム製 モノコックタブの前後に、スティールパイプ製のサブフレームを装着したもの。サスペンションは、前が上下 非等長ダブルウイッショボン、後ろが4リンクで支えられるド・ディオン・アクスルで、前後専用のビルシュタイン 製ダンパーとスプリングが装着される。 ユニークなのはミドに横置き搭載されるエンジンとミッションだ。実は自動車用ではなく、トライアンフの オートバイ用水冷直4DOCH16バルブ・エンジンと、シーケンシャル6速ミッションが採用されているのである。 このエンジン、排気量は1200ccとされているから、おそらくトライアンフ・トロフィー1200cc用、 ボアxストローク=76x65mmの1180ccと思われるが、4輪車に搭載するに当たり、あのメルセデスF1エンジン などを手掛けるイルモア社に独自のチューンが依頼されている。 イルモアの手で、キャブレターから電子制御燃料噴射に変更された結果、ストラスキャロンの心臓は125hp/9700 rpmを発揮するに至った。またミッションとディファレンシャルはこちらもレース用ミッションの分野でお馴染み のヒューランド社が開発を担当。クワイフ社製のギア(リバース用含む)やリミテッドスリップデフの採用により、 素晴らしいパフォーマンスを発揮するということだ。 一方、かわいらしい印象の丸っこいボディーの材質には、最新のLPHSケブラー/カーボン製コンポジットが 用いられ、なんと車重を550kgに抑えている。ただし軽量化および強度確保のためだろうが、ドアは切られて おらず、乗り降りには高いサイドシルを跨がなければならない。 また一見かなりコンパクトに見えるストラスキャロンだが、全長X全幅X 全高は3600X1700X1200mm、 ホイールベースは2400mm、トレッド(F/R)は1484/1460mmで、ロータス・エリーゼの 3785X1719X1143mm、2300mm、1457/1503mmとそれほど変わらないサイズである。 空力的にも洗練されており、分割されたフロントウイングスポイラーと、リアに装着されたアルミ製ウイングおよび ディフューザーの組み合わせにより、前後共通のダウンフォースを発生するということだ。 この他、ステアリング・ギアボックスはチタン製のラック&ピニオンで、ロック・トゥ・ロックは2.5回転。 またブレーキは、ブレンボのダイレクト・デュアル・ハイドローリック・システムをベースに、ブレンボ製の ディスクとAP製キャリパーが組み合わされる。さらにタイヤは、ヨコハマがこのクルマ専用に開発した 前185/55VR15、後205/50VR16サイズを、一方ホイールは前6.5Jx15、後7J x 16サイズのOZ製フィンタイプ アロイを採用している。 インテリアは、エリーゼ以上にスパルタンな印象だ。運転席の前には、MOMO製の革巻きステアリングホイールと、 スタック製のデジタル/アナログ併用メーターが備わるのみ。センターコンソール部分には、イグニッションや スターターのスイッチとサイドブレーキのレバーがあるだけだ。あれ、シフトレバーは?と思ったら、運転席の 右サイドから、小さなシーケンシャルシフト用のアルミ製レバーが生えていた。 さて、このストラスキャロンSC-5A、日本では神戸のMeishoku Automobile社が代理店権を取得し、現在予約受付中 であるとのことだ。価格はまだ未定だそうだが、今回撮影したプロトタイプ(とは言っても既に12台目の生産車 とのこと)による試乗は可能なとのことなので、詳しい情報については問い合わせてみて欲しい。 ティーポとしても、こんな面白そうなニューモデルをほおっておくつもりはない。 いずれ詳しい試乗記をお届けするつもりだ。
 
Tipo (August 2002)
story:T.Shimada
photo:H.Miyakado
打倒エリーゼの最右翼!?
気分はまさにコンペティター
ティーポが以前から気になっていた、レイナードの設計による
イルモア・チューンのトラアンフ製ユニットを搭載した
ミッドシップ・スポーツカー、ストラスキャロン。ついに試乗!
 
確かにエリーゼは素晴らしい。クルマを運転することに歓びを感じるドライバーであれば誰れもが、走り始めてほんの何回かステアリングを切っただけで簡単に実感できてしまうほど明快だ。 同じグループに属するが若干ベクトルの異なっているライバルとしてケータハム・セブンが存在するが、それを除けば太刀打ちできるモデルなどないかのような、 この種のスポーツカーしての圧倒的な完成度の高さと痛快なフィールを持っている。 だが、昨年秋の英国モーターショーに前触れもなく展示されていた名も知らぬコンストラクター のてによる小さなスポーツカーを見て、僕達は俄然色めき立った。これは、もしかするとエリーゼ・イーターの最右翼になるクルマなんじゃないか・・・・と。 その名はストラスキャロンSC-5A。英国のストラスキャロン・スポーツカーズが生産するミッドシップ・スポーツカーだ。 イギリスという国は、大衆車のメカニカル・コンポーネンツを独自のボディー/シャシーと組み合わせて1台のスポーツカーを創り上げることについては、他国の追従を 許さないものを持っていた。 だが、ストラスキャロンのやり方は、とても興味深かった。シャシーとサスペンション周りの設計をF1のBARチームやCARTなどのシャシーを 手掛けるレイナードに依頼し、スタイリングはドゥカティーを手掛けたイギリスのデザイン会社akaに線引きさせ、エンジンはトライアンフのモーターサイクル用をベースに メルセデスF1なども手掛けるイルモアにチューンナップさせ、ミッションとデフをヒューランドに開発させ・・・・・と、とにかく贅沢なのだ。 使われているパーツ類も航空機用のアルミ・ハニカム、オリジナル・スペックのビルシュタイン・ダンパーとスプリング、クワイフ製のギアとLSD、モモのステアリング、 APレーシングのブレーキ、OZレーシングのホイール、専用開発の横浜ゴム製タイヤ・・・・・・といった具合に贅をこらしたダイレクションだ。 このクルマは、元々スコットランドの貴族の息子であり自動車ジャーナリストとしても知られるイアン・マクファーソンが、自分でサーキット走行を楽しむ為のクルマを 作ろうと企画したことに端を発しているという。 そういう人物ならではのネットワークがあったがゆえ可能になったダイレクションなのだろうが、いずれにしても、 発想の原点はサーキットにあるわけだ。 そうしてカタチになったクルマは、アルミ・ハニカム製のモノコック・タブの前後にスチール・パイプ製サブフレームを装着した シャシーに樹脂製ボディーをかぶせた構造で、サスペンションは前が上下不等長のダブルウィッシュボーン、後が4リンクで支えられるド・ディオン・アクスルだ。 ウインドースクリーンはあるけれどサイドにはドアも窓もなく後ろも吹きさらしで、ウエザー・プロテクションもなく、コクピットには薄いバケット・シート2座と ステアリング、スタック製の小さなメーターひとつが備わるだけ。ヒーターが備わっていることに違和感を覚えるほど、まるっきりレーシングカーの世界である。 その背後、全長3600mm、全幅1700mm、全高1200mmとエリーゼより全長が約18cmm短く約3cm幅広い小さな車体にミッドマウントされるパワーユニットは、先述のとおり トライアンフ製の直列4気筒1.2L DOHC16バルブで、イルモアの手でキャブレターから電子制御式燃料噴射に変更されるなど独自のチューンナップを受けた結果、 125HP/9700rpmの最高出力を手に入れている。 ミッションは6速のシーケンシャルで、そのシフト・レバーはドライバーの右側に備わる。つまり右ハンドルの右シフト。 まるでフォーミュラ・マシンだ。 ボディーをまたぎ越えて低いシートに腰を下ろすと、とてもじゃないが公道を走るクルマに乗り込んだ感覚にはなれない。 これだけは常識的なステアリング・コラムに備わるキー・シリンダーに右手を伸ばし、左右のシートの間にあるトグル・スイッチを左手でパチンと弾いて電磁ポンプを 回し、その脇にあるスターター・ボタンを押すと、1.2Lの元のモーターサイクル用エンジンが嫌がることなく目を覚ます。そのサウンドはやはりモーターサイクルのもの にかなり近い。セブンのブラックバードのときも感じた妙な新鮮さだ。 シフトは前に押して1速、そこから手首をコンとひくとシフトアップ、押し出すとシフトダウン。 1速に入れようとクラッチを踏んで手首を前に押しやると、ガシャという大きめのショックに驚かされる。低速トルクは乏しいだろうと思っていたから、念のために 足馴染みのいいスロットルで3000rpm付近を選んでクラッチをリリースした。 するとストラスキャロンは、一瞬むずがったようにノーズを沈めた。 すぐにスロットルをあてて加速することができたが、低速トルクの少なさは想像以上だ。 ただしそれを痛感するのは発進のときだけで、動いてしまえば3000rpmで流して もギクシャクすることはないし、4000rpm辺りからなら充分に力強く加速してくれることも、吸い込まれるようにスパッと瞬間的にシフトのアップ・ダウンが完了してしまう シーケンシャル・シフトにリズムが合わせられず、ギクシャクとした走りを強いられながら確認できた。 この日のレブ・リミットは8000rpm。郊外のワインディングにさしかかる辺りには、電光石火のシーケンシャルのリズムにもだいぶ自分のものにすることができたから、自分 にもクルマにも鞭を入れる。 さすがにエンジンはかなりの高回転型だ。回転が上がるに従ってモリモリとパワーを増し、さらにここから伸びていくぞとという感覚が ある8000rpmでスロットルを瞬時に緩め、同時に右手首を軽く引く。瞬きするより早くシフトは完了し、すでに次のギアの加速体勢に入っている。 ブラックバードほど過激ではないが、それでも呆気にとられるほど速い。重量がたった550kgなのだから、たかが125HPでも充分な加速力とスピードを提供してくれるのだ。 瞬時に決まるシフトとレスポンス良く跳ね上がるエンジン。 軽さが生むマスのない加速感と、あっさり速度を削り取る秀逸なブレーキが生む減速感。 ペダルを踏む 足の裏側からも、心地よいフィーリングしか伝わってこない。ただそれだけでも嬉しくなってくるほど楽しいのに、ストラスキャロンは身のこなしも実に軽い。 ステアリングを切り込むと思ったよりノーズが内側に切れ込むフィーリングが少し気になったが、それでもエリーゼのようなヒラヒラ感よりももっとダイレクトでもっと シャープなフィーリングを味わいながらコーナーを脱出していくときの爽快感は、何にも変えられない。路面が濡れていたこともあるが、どちらかといえばオーバー ステアー傾向が強いようで、リア・ウイングは高速コーナーなどでリア・タイヤを安定させるための必要不可欠なアイテムなんじゃないかと感じた。 とはいえ今回の低速コーナー主体のワインディングのスピード・レベルでは、僕の腕前でもクイックなステアリングとスロットルで充分に修正は効く。 コントロール性も悪くない。 ストラスキャロンは、エリーゼほど洗練されているわけではない。でも、それは目指す方向がエリーゼとは異なるというだけの話で、 おそらくメイン・ステージとなるサーキットで存分に楽しく汗をかくことができ、ワインディングでも充分に一人でコンペティティブな気分を味わうアイテムとしては かなり秀逸なモデルだと思う。こいつはスポーツカーでなく、ストリートを走ることもできるレーシングカーなのだ。 コイツのある生活を想像してみる。例えば煙草を買いに行くだけのドライブでも、あのシフトの異様な早さと格闘する楽しみがある。 交差点を普通に曲がるときすら、あの驚くほどダイレクトでクイックなフィールを楽しむことができる。−−−−悪くない!
 
CAR GRAPHIC (November 2002)
story:K.Tanabe
小さなクルマの大きなシゲキ
田辺憲一
 
近ごろ、たいていのモノにはシゲキを感じなくなった。これがトシをとるということなのかもしれないが、300キロ近くも出るフェラーリやポルシェに 乗っても、あァ良くできたクルマだナと思えても、昔のようにワクワク、ゾクゾクとはならないのだ。もちろん、僕だけのせいじゃない。クルマの方が 良くなりすぎたのだ。良すぎるというのは実は問題であって、ほんとうは乗り手が覚悟を決めなければならない高速を、そう感じさせずにサラッと出してしまう のは一種のインギン無礼のようにも思える。                                                           その点、イギリスならではの手づくりライトウェイトは大いにシゲキがあっていい。1年以上も前から心待ちにしていた超ライトウェイト、ストラスキャロンと アリエルとジネッタの3台は、そのちっぽけなサイズからは絶対に想像できないような絶大なシゲキを感じさせてくれたのである。 まずストラスキャロン。これこそは、99年のジュネーブ・ショーで僕が見そめた無名のクルマで、ひと言で言えばロータス・エリーゼの精神をさらに突きつめた ような成り立ちである。サイズはエリーゼと変わらないのに、ドアもないボディは550kgと極端に軽いから、リアに隠されたトライアンフのバイク用エンジン(1200cc) でまさにスッ飛ぶように走るハズなのである。 で、本当のところ、このクルマは初めから良くできたレーシングカーのように、大いなるシゲキと共に見事によく走るのだ。 あのヒューランドが手を入れたバイク用の6段ギアボックスの速さはまさに本物。フェラーリのセミオートマがもどかしく感じられるほどの気分になれるのであった。      
次はアリエル。イギリス製オートバイの名門の名を受けついだこのクルマは、いわば2人乗りのフォーミュラカーである。太いスチールパイプだけの構成で、ドアはもちろん なく、ノーズカウル以外にはパネルを一切持たないことで、むしろ本物のフォーミュラよりも過激な感じさえあるほどだ。エンジンはエリーゼやMGFと同じローバーKシリーズ だが、重量は456kgと本物のフォーミュラ並に軽い。そして前後のサスペンションはベルクランクを用いたリンク式で、簡単にジオメトリー調整ができる構成になっている。 というわけで、こいつは”公道も走れるフォーミュラ”そのものなのだが、全身に強い風を感じながら(なぜかバイク以上である)クイックなステアリングを操る特殊な感じは、 とてもシゲキ的なのである。 そして3台目がジネッタのG20というクルマ。これだけがフロントエンジンで一見してはおとなしい成り立ちなのだが、背の低いウィンドスクリーンはあるものの、やはりドアも なければ幌もない割り切り方で、言うなれば50〜60年代のイタリア製レーシングスポーツの雰囲気である。エンジンはフォードの1.8だが、ギアボックスはケイターハム製。 野太い排気音と適度にクロースした5段ギアが心地好く、高価なクラシック・レーシングスポーツの気分が誰でも味わえるのた。
この3台に乗った後、実はもう1台、シリーズ1のエリーゼにも乗ってみた。ストラスキャロンの輸入元である神戸の明植自動車が、非常にゼイタクなつくりのスペシャルマフラーと JRZという名のコイル/ダンパー・ユニットを組み込んだクルマなのだが、これにはまた、実に感慨深いものがあった。たったそれだけのモディファイなのに、エリーゼというクルマ 本来の美点が大きく伸ばされたような新たな快感が確かにあるのだ。それはもちろん、ノーマルのエリーゼに欠けていた、心地好い排気音であり、また、もっとしなやかにならない ものかと思われたサスペンションの動きなのであった。当然、僕はグラッとはきたが、すぐにそいつを注文できなかったのは、マフラーもダンパーもモノがモノだけにとても高価 だからである。つまり誕生日を目指して貯金でもしなくてはならないわけだが、誕生はまだ過ぎたばかり。時間が充分にあるのは好都合だが、それまで僕の精神力がもつかどうかは とても不安なのである。 この3台の超ライトウェイトはCG TVの第840回(10月13日より順次、各局で放送予定)の登場します。ご覧になれる地域の方は是非お見逃しなく。                                                         
 
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